クイックに理解する「移転価格税制」

前回のコラムで国際税務の概要をまとめてみましたが、今回は国際税務の中でもっとも有名、かつ名前が知られている「移転価格税制」について簡単に概要をまとめてみました。

前回同様、このコラムのコンセプトは「移転価格税制が話題になった時に話についていけること」で、基礎的な概念の部分について理解していただくことを目的としています。

移転価格税制の制度趣旨と対象取引

まず、大前提として誤って理解してはいけないのは、国外の会社との取引すべてでこの移転価格税制が問題になることはない、ということです。移転価格税制の適用対象取引は、ざっくりですが以下のようにまとめることができます。(なお、便宜上、このコラムでは海外子会社はすべて米国にあることを前提としています)

移転価格税制とは、「国外関連者」と定義される、50%以上の資本関係を有していたり、また実質的に支配している外国法人と、当社との間で行われる取引が対象となります。

なぜ、「支配している会社との取引だけか」といえば、支配している会社との間では、移転価格を通常の第三者間取引における取引価格と異なる金額に自由に設定して、企業グループ内において、利益(課税所得)を意図的に、例えば税負担率の低い国にある会社に移転することができてしまうからです。

つまり、支配権が及ぶことから、親会社の指示・命令でいかようにでも取引条件をいじれてしまうため、親会社が日本企業の場合、日本に落ちる税金を意図的に少なくするような取引を構築されることは日本の税務当局としては看過できない、ということになるからです。

対象取引については、資産の販売だけではなくすべての有償取引が対象となります。つまり、親子会社間における製商品の販売や購買、金銭の貸付・借入、人の派遣、特許権や商標権などの無形資産の譲渡・貸借取引、そして各種ノウハウの提供など、あらゆる対価の授受を伴う事業活動が対象に含まれることになります。

上記でも少し触れましたが、日本の移転価格税制は、日本における税制確保を目的としていることを忘れてはいけません。つまり、移転価格税制の適用によって、課税所得が増えるケースのみが対象となります。

以下で国外関連者に該当する海外子会社に対する売上と仕入の両方の場合でまとめてみました。

1.日本から海外子会社へ販売するケース

①はそもそも支配従属関係にある国外関連者との取引ではないので、移転価格の問題が発生しません。なお、上記のケースでは、①の取引価格100を「独立企業間価格」としています。

②について、独立企業間価格100であるところ、それを下回る80で海外子会社に販売されています。このような場合、制度上は取引が独立企業間価格で行われたものとみなすとされています。「みなす」となっていますので、独立企業間価格100を用いた取引を実際に要請・強制するのではなく、この価格を用いて税金計算が行われることを意味します。

③は、日本企業の本社にとって、そもそも独立企業間価格100よりも有利な条件(120)となっているので、仮に独立企業間価格100で取引が行われたものとみなした場合、販売価格を現状の120から100への下方修正が必要で、結果、課税所得まで減ってしまいます(日本における税制確保の目的から逸脱することに)。よって、移転価格税制が適用されない取引となります。

2.日本本社が海外子会社から仕入れるケース

上記の販売のケース同様、①と②はそれぞれ、移転価格税制の適用外となります。よって、100で買えるものをあえて120という高値で購入することで、販売時の売上原価も高くなり、最終的に日本における課税所得が低く抑えられる処理である③のみが移転価格税制の適用を受けることになります。

独立企業間価格の算定方法

移転価格税制の制度趣旨を説明しましたので、次はこの論点で一番メインになる「独立企業間価格をどのように算定するか」について触れてみたいと思います。

まず定義についてですが、この独立企業間価格は、簡単に言えば、その取引が資本関係・支配従属関係のない第三者間で行われたとした場合に適用される価格となります。

そして、その算定方法は唯一無二の1つの方法だけしかないのではなく、複数の方法が存在します。実務においては、さまざまな条件や状況に応じて最も適切だと思われる方法を用いて、独立企業間価格が算定されることになります。

今回、ここでは以下の算定方法について、概要をお伝えしたいと思います。

  1. 独立価格比準法
  2. 再販売価格基準法
  3. 原価基準法
  4. 寄与度利益分割法

まず始めに、上記の1~3の方法が、日本の制度上「独立企業間価格の算定における基本三法」として、基本的な算定方法と位置付けられています。

さらに、その3つの方法の比較では、国税庁が発表している移転価格事務運用要領において、国外関連取引と比較対象取引の価格を直接比較する方法である『独立価格比準法』(1番)が、独立企業間価格を最も直接的に算定することができる長所を有しているとされています。2番と3番の方法はこの独立価格比準法の次点とされ、「独立価格比準法に次いで独立企業間価格を直接的に算定することができる長所を有することに留意する」とされています。

では、これを踏まえて、それぞれの方法について見ていきたいと思います。

① 独立価格比準法

国外関連者ではない、すなわち、支配従属関係のない独立した取引先に対する取引で適用された価格をもって、独立企業間価格とする方法です。この場合、100での販売実績がありすので、海外子会社に販売する際もこの100の価格であれば、問題ないということになります。

ちなみに、参照した独立の取引先との取引事例は、独立企業間価格の算定が必要な取引が参考とすべき「比較対象取引」と呼ばれることになります。

この方法が『独立企業間価格を最も直接的に算定することができる長所を有している』とされているのは、見積もりや仮定を置いた計算に基づいて算定される価格ではなく、まさに実際の取引成約事例が伴う価格であることから、最も信頼性が高いことに起因します。但し、同種の比較対象取引の事例入手が困難なケースが多く、限界が指摘されています。

②再販売価格基準法

2番の「再販売価格基準法」と3番の「原価基準法」を適用する際には、まず自社グループが関わらない、支配従属関係にない三者間の取引事例から、対象の製商品の輸入業者がどれくらいの利益率で取引を行っているかを見積もる必要があります。

上記の事例では仕入・販売を行う会社が100で仕入れて、150で販売しているケースなので、売上総利益率は50%になります。

これが分かれば、当社が関わる輸入取引において、海外から仕入れた製商品を180で国内の取引先に販売する場合、上記の独立企業間での利益率からあるべき仕入金額を逆算することが可能です。これが、2の「再販売価格基準法」となります。

海外子会社から仕入れた製商品を国内で販売するケースにおいて用いることができる方法になります。

③原価基準法

一方で、仕入調達が国内で、販売が海外の場合、算定すべきは販売価額になるので、上記の2の再販売価格基準法は利用できません。こちらは、調達した仕入価額から販売価額を算定する方法を取ります。

すなわち、仕入価額が120の場合、こちらに販売に伴って負荷する利益率を乗じて、あるべき販売価額を算定する方法です。これが3番の「原価基準法」です。仕入価額(コスト)に利益を加算(プラス)することから、コストプラス法とも呼ばれています。

日本企業は輸出企業で移転価格税制の論点がよく出てきますので、実務においては、この原価基準法を適用しているケースが多いです。

④寄与度利益分割法

国外関連取引により、法人(当社)と国外関連者に生じた営業利益を合算して、その合算した営業利益を改めて両者に再配分することで、独立企業間価格を算定する方法も存在します。ここでは、両者が利益獲得のために支出・負担した費用の額を用いて、利益獲得にどれくらい貢献(寄与)したか、の割合をもって再分配する方法を紹介します。

以下のケースは本社(当社)から見た場合、商流全体で100の利益を獲得していますが、一方で販売コストとしては、商流全体で50発生し、本社と海外子会社で3:2の割合の負担が発生しています。

よって、この販売コストの負担が利益獲得へ貢献割合とみなし、利益額をこの割合に応じて按分します。

そうすると、本社は全体利益100のうち、5分の3(=60%)の貢献・寄与をしているわけですから、60(=100×60%)の利益が配分されることになります。結果、仕入価額に60の利益を付加した160の金額で海外子会社に販売するのが移転価格税制上妥当、という結論になります。

独立企業間価格の算定に関する論点

理屈だけ見ると、そこまで難しくないと感じる方もいらっしゃるかと思います。しかしながら、多くの企業で税務当局とこの独立企業間価格について認識の不一致が生じ、これが移転価格税制で多額の課税が発生し、企業側が控訴・協議するという多くの事例を生み出しています。

どうしてそうなるのか?それは、独立の第三者に対する取引事例がなかったり、そもそも自社グループ以外が関わらない、支配従属関係にない三者間の取引事例の情報を企業側が取り得ないことに起因します。他社がどのような価格で取引を行っているか、が分かれば、これほど楽なことはありませんが、ほぼその手の情報を掴むことは困難です。

なので、企業側としてはしっかり理論武装をしたつもりでも、税務当局が考える独立企業間価格の間で差異が生じ、見解が一致しないケースが多々発生することになります。

写真:freepic

移転価格課税リスクと付随する税務上の寄附金リスク

最後におまけとして、移転価格税制について議論されると、実際は海外子会社(国外関連者)との取引において、契約上の取引価格で取引されていないケースが発覚し、税務当局と議論されることがあります。この場合、日本企業側で不利になっていれば、税務上の寄附金として認定されるリスクが顕在化することになります。

簡単にまとめた図は下記のとおりです。契約上の販売価格と独立企業間価格の差は移転価格税制で検討されるべき差異となりますが、契約上の販売価格と実際の取引価格に差異があり、契約上の販売価格を(大きく)下回っていれば、その差異額は「海外子会社への寄附ではないか」と疑われることになります。

以上が、移転価格税制の概要になります。先ほど説明した移転価格税制、特に独立企業間価格の算定で十分説得力のある価格算定が実務上難しいことから、企業としては移転価格税制リスクを軽減するために、移転価格文書を整備したり、また事前確認制度(APA: Advance Pricing Arrangement)などを活用しています。このあたりは後日、改めて整理してみたいと思います。

<参考>
国税庁 移転価格事務運営要領『独立企業間価格の算定等における留意点

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