日銀追加利上げに関する所管

日本銀行(以下、「日銀」)による最近の利上げは、米国経済の景気悪化不安と重なって、急激な円高・株安(8月2日の日経平均は歴代2位の下げ幅となった)という形で、日本経済に大きな影響を与え、様々な議論を呼んでいます。

何が起こっているのか、を中心にまずは、足元の状況を箇条書きで整理しました。

1. 米国:

  • 新規失業保険申請件数の増加や製造業景況感指数の悪化など、経済指標の悪化が見られた
  • 7月の雇用統計では失業率が4.3%に上昇し、4か月連続の上昇となった。それも、市場予想(4.1%)を超え、2021年10月(4.5%)以来の悪い数字となった
  • 農業分野以外の就業者の伸びも市場予想を大きく下回った
  • 経済指標の悪化についてのマーケットの受け止め方も変わってきた
    これまでの「Bad News is good news」(悪いニュースはいいニュース)の見方が、Bad News is bad news」(悪いニュースはやはり悪い)に変わってきている

<所感>
米国経済の下振れリスクへの懸念が高まっています。また、FRBの利下げ可能性についても、これまでは、悪い経済指標が出ると、FRBへの利下げ期待により株価を押し上げる要因となっていましたが、最近では『経済指標の悪化が深刻すぎるから利下げせざるを得ない』という見方に変わってきています。

(Photo:FREEPIK)

2. 日本経済と日銀の追加利上げ

まずは日本経済の足元の状況です。

  • 日本の内需がまだ十分に回復していないにもかかわらず、日銀が利上げを決定したことについて、タイミングの悪さが指摘されている
  • 具体的には、日本経済は依然として内需が弱く、コロナ禍前の2019年平均と比較しても、個人消費は約2%下回っている状態
    (現状は、個人消費の低迷を政府支出で相殺し、何とかコロナ禍前の水準を維持している状況)

次に日銀の追加利上げについての疑問点です。

  • 今回の追加利上げで注目すべき事由は、日銀が2024年度の実質GDP成長率見通しを1.2%から0.6%に下方修正しているにもかかわらず、利上げを行ったこと
  • これは、グローバルスタンダードの見方からすれば、経済見通しを下げながら政策金利を引き上げるという矛盾した行動と見なされることに
  • 日銀の植田総裁は「物価の上振れリスクを懸念して利上げを行った」と発言されていますが、実際には物価は安定してきており、インフレ加速リスクはむしろ弱まっている、と見るのが筋
    (それを裏付けるのが、日銀の実質GDP成長率見通しの引き下げ)
  • 対照的に、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は最近、政策金利を0.25%引き下げることを決定(2020年3月以来、4年5か月ぶりの利下げ)。インフレ圧力が十分に緩和されたことを理由に挙げており、インフレ加速の再燃リスクが低下したと判断したとされている
  • イギリス経済の短期的な見通しは以前より明るくなっており、2024年の成長率予測は上方修正されている。しかしながら、今後想定される悪材料、

    ①アメリカ経済の景気悪化がイギリス経済にも下押し圧力をかけること、
    ②労働党政権への交代に伴う財政緊縮策により内需が弱くなる可能性があること

    などから、経済の先行き不安を懸念して利下げを行ったと考えられている
  • 多くの日本国民が物価高に苦しみ、景気もコロナ前の水準を回復できない中で、日銀が取るべき判断はイングランド銀行のように景気の先行きを踏まえた判断だったのではないか
    (足元の状況下での利上げは、さらなる経済的負担を国民に強いる可能性がある)
(Photo:FREEPIK)

金融正常化を急いだ背景

  • 今後見込まれる米国経済の悪化、FRBの利下げ、日本の総裁選を含めた政治の不安定化、を考慮すると、「今、利上げをしないと、今後利上げが難しくなる」と捉えている可能性が指摘されている
  • 本来、日銀法第4条に基づき、日銀には金融政策について、政府の経済政策と整合性が求められている。それにもかかわらず、今回利上げを行ったということは、政府の景気浮揚・景気刺激の対策と矛盾しているとも考えられる点で矛盾が大きい
    (FRBと日銀の役割や目標についての比較表は以下のとおり)
  • 内閣府は、財政の健全性を示す指標「基礎的財政収支」(いわゆるプライマリーバランス)が来年度2025年度に国と地方あわせて8000億円程度の黒字になるという試算を示した。しかしながら、その前提は今年度で+0.9%、来年2025年度で+1.2%のGDP成長率としている
  • 今回の利上げでこの成長率を押し下げる可能性があり、そうすると、今回の追加利上げは経済の下振れリスクを増やしただけと言える
  • 植田総裁のコメントの中で「一口に中小企業と言ってもすごくばらつきがあって、場合によっては大企業よりも元気な中小企業もあるということだと思います。」と表現あり、今回の利上げでも中小企業について影響は軽微である旨を強調。
    しかしながら、本来目配せすべき対象は、大企業よりも元気な中小企業ではなく、ごく普通のありふれた中小零細企業のはず。この理由に疑問を呈する識者のコメントあり

金融正常化(金利のある世界)を目指すことには全く否定しませんが、今回の追加利上げは拙速で、まずはコロナ禍前の2019年のGDPに回復させる「経済正常化」を実現して、賃上げが中小企業にまで波及し、企業の資金需要も旺盛になってからでも遅くなかったのではないか、そのように思います。

2024-08-04|タグ: ,
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