クイックに理解する「GK-TKスキーム」

非上場の投資ファンドでは、GK=Godo Kaisha「合同会社」、TK=Tokumei Kumiai「匿名組合」を組み合わせた投資ストラクチャーである、『GK-TKスキーム』が広く活用されています。

このGK-TKスキームは太陽光発電に代表される再生可能エネルギー事業への投資や、不動産を信託受益権化して行う不動産投資(不動産ファンド)などで利用されているスキームです。ただし、かなりテクニカル、かつ複雑な投資スキームであると言えます。

今回はこのGK-TKスキームの概要・仕組み、メリットなどを理解したい方向けに、ビジュアルで分かりやすく説明したいと思います。

GK-TKスキームの概要

GKーTKスキームは、一般的には、SPCとしての合同会社が保有する不動産などの投資資産を信託に拠出して証券化するとともに、この不動産の取得のための金融機関からの借入、および匿名の投資家からの出資が組み合わさった構成となります。全体のストラクチャーを図で示すと以下のとおりです。

SPCとは?

SPCは「特別目的会社」を意味する「Special Purpose Company」の頭文字を組み合わせたものになります。特定のプロジェクトや取引のために設立される法人全般を指し、SPCという会社形態があるわけではないです。言い換えると、株式会社のSPCも、合同会社のSPCも存在するわけです。ただ、「特定の目的があって設立された会社」ということを意味するだけになります。

一方で、SPCとよく似た用語として、SPV(Special Purpose Vehicle)やTMK(特定目的会社)の言葉がこの証券化やプロジェクトファイナンスの世界で登場します。この関係性は一度頭の中で整理できれば、間違えることは少なくなりますので、まずは、これらの様々な用語を整理することから始めたいと思います。

SPVは特定の取引や事業のリスクを母体となる会社から分離するために設立されるビークルのことであり、上図2のとおり、SPCよりも上位概念で、広範な意味で使われます。言葉を変えれば、SPCは会社形態に限定されますが、SPVは信託や契約JVなど、法人格のない手段も含まれます。

上図2はSPVの代表例として4形態を示していますが、これらの例をとっても、様々な切り口で分類分けが可能です。

そして、今回の主題であるGK-TKスキームは法人格のある営利法人である合同会社をSPCとして利用するスキームとして整理されます。後ほどご紹介しますが、GK-TKスキームの目的として

・倒産隔離
・投資家の匿名性の確保
・二重課税の回避
・リコースの限定(投資物件のキャッシュフローや資産のみに返済請求権を限定)

がありますので、設立目的も、倒産隔離を主目的として、プロジェクトファイナンス的要素も兼ね備えることになっています。

<余談>
今回のテーマの本題ではありませんが、TMK(特定目的会社)も不動産証券化に活用されるスキームの1つですが、我々が目にする不動産投資ファンド案件では、GK-TKスキームを利用するケースが多いと言われています。根拠はその使い勝手の良し悪しになりますが、GK-TKスキームとTMKを比較すると以下のとおりとなります。

GK-TKスキーム構築の流れ

不動産証券化を例に、このスキームの組成手順を示したものが以下のイラストになります。口頭で補足説明をするならば、

・SPCを作って、そのSPCが銀行から借入を行い、投資対象物件を購入(①〜③)
・その後、購入物件を信託銀行等に信託し、証券化(④)
・そして、SPCは受益者としての匿名投資家を募り、出資を受ける代わりに信託受益権を提供(⑤)
・調達した資金で借入の返済や管理費用に充当

という流れになります。

図3:GK-TKスキーム構築の流れ

GK-TKスキームの詳細

では次に、図1「GK-TKスキームの概要」で示した5つの構成要素、すなわち
・合同会社(GK)
・信託銀行等
・銀行等(レンダー)
・匿名組合(TK)投資家
・一般社団法人
について、それぞれ個別に、GK-TKスキームにおける役割や目的、その背景について説明していきたいと思います。

GK(合同会社)について

まずは、投資の箱として、なぜ合同会社が利用されるのか(なぜ、株式会社ではないのか)から説明していきたいと思います。

結論から申し上げると、「合同会社の方が使い勝手が良いから」という回答になります。

合同会社も株式会社もどちらも法人格はありますし、出資者(合同会社の社員、株式会社の株主)は自らの出資額が責任の限度となる「有限責任制度」を採用している点は同様です。

一方で、合同会社(GK)の設立費用は株式会社(KK)よりも低く抑えられます。株式会社を設立する場合、資本金の払い込みや定款の認証(公証人による認証)が必要であり、これらの手続きに伴う費用が合同会社よりも高くなります。一方、合同会社は資本金の払い込みについても柔軟で、定款の認証が不要であるため、設立コストを低く抑えることができます。

また、運用維持コストに関しても、合同会社は取締役会の設置義務や株主総会の開催義務がないため、ガバナンスコストが低く抑えられます。これに対して、株式会社は法定機関の設置と定期的な会議開催が必要で、これらの運営コストがかかります。

また、経営の自由度・柔軟性についても、株式会社(KK)は、法的に定められた取締役会や株主総会などのガバナンス構造を持つため、運営に関する意思決定プロセスがより厳格であり、柔軟性に欠ける場合があります。これに対して、合同会社は、取締役会の設置義務がなく、運営の自由度が高い点が特徴としてあります。

以上の点から、合同会社がこの投資スキームの箱として利用されることになります。

信託について

不動産ファンドへの投資でよく耳にする「不動産の証券化」。証券化のプロセスの中にこの信託受益権化が含まれますが、「なぜ、不動産を現物のまま保有せずに信託受益権とするのか」について理解することがこのスキームで重要となります。ここでは、この不動産信託受益権について説明したいと思います。

こちらも、結論から端的に申し上げると、不動産を複数の関係者で購入・所有する形になると、大変手間が掛かるので、直接現物保有することを信託受益権化により回避することが目的となります。

ここで登場する不特法(不動産特定共同事業法)は、不動産を共同で購入・保有・運営する事業に適用されます。特に、不特定多数の投資家から資金を集めて不動産を共同保有する場合、この法律の適用を受ける可能性があります。そして、この不特法は投資家保護を目的として、事業者に対して人的要件の整備、宅建業免許の取得など厳しい要件を課しています。これらは、単なる投資のための箱に過ぎない投資ファンドには厳しすぎる要件となります。

つまり、不特法の適用を受けると、ファンド運営者は多くの規制に従う必要があり、これが運営コストの増加や事業の柔軟性の低下に繋がってしまいます。そのため、運営者は可能な限り不特法の適用を回避し、規制の負担を軽減したいと考えるわけです。その解決策として不動産の信託受益権化が存在します。

「信託の利用によってどうなるか」というと、GKが不動産を購入し、その不動産を信託に出して不動産の所有権を信託銀行等に移し、その代わりに信託受益権を受け取って資産として保有すれば、投資家は不動産そのものではなく、信託受益権を購入することになります。信託受益権は、法律上「不動産」ではなく「金融商品」として取り扱われるため、不特法の適用を免れることができる、というわけです。

上図4のとおり、受益者たる匿名組合(TK)投資家は、信託受益権を保有することで、不動産収入(実質的にはGKの利益の分配)を受け取る権利を手に入れることになります。

信託という名の所有権移転

不動産を信託受益権化とすると、信託銀行が投資物件(ここでは不動産)の形式上の所有者となります。当然、所有者となる信託銀行は自分が保有することになる投資物件について、念入りに精査(デューデリジェンス)を行います。これは匿名組合(TK)投資家の観点から、大変安心できるものであり、結果として、投資家は「信託銀行が確認して問題ないと判断した物件だ」と、より安心して投資可能となり、GK側にとっても資金調達が容易になる、というメリットをもたらします。

ただし、信託銀行が不動産の所有者となったといえど、この投資物件からもたらされる実質的な経済的利益を享受するのは、受託者である信託銀行ではなく、受益者である投資家になります。

よって、この物件の日常的な管理業務(点検・修繕・清掃・保守管理など)や、税金・保険料の支払いなどの維持管理費用については、受益者が負担することになります。

結果、不動産の所有者である信託銀行がこれらの費用を一時的には全額支払いますが、信託契約に基づいてこれらの費用の負担をGK、ひいては匿名組合(TK)投資家に求めることになります。

なお、上図5に記載のとおり、信託銀行は主に金融機関としての業務に特化しており、不動産管理のプロフェッショナルではありません。そのため、実際は、不動産の管理・運営業務の多くは外部の不動産管理会社(FM企業*1 やPM企業*2 )に外注されるケースがほとんどです。

*1 FM企業(ファシリティマネジメント会社):
建物全体の運営・維持管理を担当します。具体的には、設備の保守・点検、清掃、セキュリティ管理など、施設全体の運営を総合的に管理します。

*2 PM企業(プロパティマネジメント会社):
特にテナントとの賃貸借契約管理や賃料の徴収、空室のリーシング、テナント対応など、不動産運営の商業的側面を管理します。

銀行等のレンダーについて

次は、GK-TKスキームにおけるレンダーからの資金調達(いわゆる「デッド」)についてです。

企業が金融機関から受ける融資(銀行借入)は、いわゆる「コーポレート・ローン」と言われるもので、融資を受ける企業全体の信用力を与信して貸し出されるローンです。 企業が行う銀行借入の多くはコーポレート・ローンに分類され、フルリコース型*3 のローンです。

*3 フルリコース型のローン:
借り手がローンの返済を履行できない場合、貸し手は借り手の全資産に対してリコース(返済請求)することができます。これにより、貸し手は借り手のすべての財産を対象に債務の回収を行うことが可能となります。通常のコーポレート・ローンがこれに該当します。

しかしながら、GK-TKスキームでは、借入を行う会社であるGKはそもそも箱でしかありません。なので、「ノンリコースローン」と呼ばれる投資ファンド向けの特別の融資方法が採用されることになります。

このノンリコース型のローンは、借入企業自体の与信ではなく、投資対象となる不動産や事業の収益のみを返済原資とする借入れとなります。前述のコーポレート・ローンとの比較表は以下のとおりです。

返済原資が投資対象に限定されるため、貸し手の金融機関にとってはリスクの高い取引となります。当然、金利条件などは高く設定されますが、それとは別に「倒産隔離の必要性」が発生します。これは一般社団法人のところで解説したいと思います。

匿名組合(TK)投資家について

GK-TKスキームの最も際立った特徴としては、日常ではほとんどと言っていいほど目にする機会のない「匿名組合(TK)」がスキームに組み込まれていることです。

匿名組合とは何者なのか?これは、匿名組合員と営業者の二者間で締結される匿名組合契約という契約形態になります。組合と聞くと、労働組合に代表されるような「団体」「人の集まり」をイメージしがちですが、匿名組合は「契約」である点、間違えやすいので注意が必要です。

図7:匿名組合の概要図

この匿名組合ですが、商法で規定されている契約形態で、色々制約があります。例えば、匿名組合では金銭以外の出資は認められていませんし、下図8のとおり、投資家である匿名組合員が出資した金銭は、営業者であるGK(SPC)の財産となってしまいます。また、純粋な資金提供者として位置付けであり、実際の事業運営に関与が認められていません(GKに対して指示などもできません)。

しかしながら、GK-TKスキームには上記のTKが被るデメリットを上回るメリットがあるため、このスキームが業界で市民権を得た、と言っても過言ではありません。その強大なメリットは、

・二重課税の回避
・投資における匿名性の確保

の2点になります。匿名性は組合員である匿名組合出資者相互には契約関係がなく、文字どおり、出資者の名前が表に出ないという特徴になります。よって、ここでは、「二重課税の回避」に絞って、もう少し解説したいと思います。

二重課税の回避

国税庁法人税基本通達14-1-3(匿名組合契約に係る損益)において、匿名組合投資家に支払われる分配金について、損金算入が認められています。これによりビークル(本ケースではGK)は実質、課税所得をゼロにできることになり、GKでの納税を考えなくてよくなります。

以下、2つのケースで比較してみましょう。1点目は株式会社に出資した株主に対する利益配当のケース、2点目は匿名組合(TK)として出資した投資家に対する利益分配のケースです。

ご存知のとおり、株主に対する配当は法人税等が差し引かれた税後利益から株主に支払われる上、その配当を受け取った株主はさらに所得税等の負担を被ることになります。これがいわゆる「配当に伴う二重課税」です。

一方、匿名組合(TK)の場合は、前述の国税庁法人税基本通達14-1-3に基づき、TK出資者に分配した利益はGKにおいて損金として取り扱われるため、獲得した利益を全額投資家に分配すると、利益(≒課税所得)はゼロとなり、GKにおいて法人税等(均等割除く)は発生しません。税金が発生するのは、TK出資者のみとなります。これで法人及び投資家の両方で課税が発生する二重課税が回避されることになります。

このようなメリットを享受することができる制度は商法が定める匿名組合(TK)以外ありません。

一般社団法人による出資について

いよいよ最後に来ました。GK-TKスキームで、GK設立の際に資本を提供するプレイヤーとして、一般社団法人を出資者にしています。これはどういう理由によるものか、という点を解説したいと思います。

結論から申し上げると、リスク管理と投資者保護の両方の観点から、一般社団法人の利用が最も効果的であると言えます。以下は出資者として、一般社団法人以外に、合同会社や株式会社、不動産元保有者(オリジネーター)の4つのケースの比較になりますが、黄色のハイライトが有利であることを示していますので、一般社団法人の利用が偶然ではないことが一目で分かります。

特に重要視されるのが倒産隔離の点です。一般社団法人の評価が「非常に高い」となっています。
ただ、「倒産隔離って何?」という方もいらっしゃるかと思います。そこで、倒産隔離の説明から入ることにします。

倒産隔離について

倒産隔離が必要な背景は以下のとおりです。

これをイラストにすると、以下の図9のようになります。確かに、投資物件に抵当権を設定していれば、倒産した場合も全く債権回収できないわけではありませんが、全額の返済は厳しいですし、回収のスピード感もかなり遅く、銀行等の金融機関にとってはストレスの溜まる取引にならざるを得ません。

そして、「GKの所有者をモノを言えない主体にする」やり方として、一般社団法人に GK の出資持分を持たせた上で、同一般社団法人が自分たちの意思では破産できないようにして、倒産隔離を実現しています。

上図10で示しているとおり、オリジネーターから独立した一般社団法人がGKに出資すると、オリジネーターは一般社団法人内での議決権行使、一般社団法人によるGKでの議決権行使に影響を及ぼすことができなくなります。

なお、一般社団法人では、設立に際して資金拠出を行っていない者でも、法人の議決権を有し、職務執行者となる「代表社員」に就任できるため、弁護士や公認会計士等の中立的・独立的な第三者に代表社員となってもらうことが容易となります。この点が、他の出資がないと社員や株主になれない合同会社や株式会社と異なる点です。倒産隔離のためとはいえ、独立の第三者の弁護士や会計士に議決権を持ってもらうために「出資して欲しい」とはなかなか言えないものですから。

まとめ

GK-TKスキームが上記のように複雑に設定されている理由は、投資家が安心して投資できる環境を整えるためです。投資家は、運用成績に基づく損益については投資した金額の範囲内で責任を負う立場にありますが、投資ファンドそのものが倒産や予期せぬトラブルに巻き込まれたりした場合でも、投資家が追加的な責任を負うことがないように設計されていなければなりません。GK-TKスキームは、合同会社(GK)と匿名組合契約(TK)を組み合わせることで、投資家のリスクを限定的にする仕組みとして設計されています。

GK-TKスキームは、主に非上場の投資ファンドにおいて利用される仕組みであり、そのため、「本当に安全に投資ができるのか」と心配に思う方もいるかもしれません。しかし、このスキームは、倒産隔離やリスク分散のための仕組みを組み込むことで、可能な限り安全な投資環境を提供するよう配慮されています。具体的には、投資対象となる不動産などの資産を信託に入れて信託受益権化し、さらに投資家が直接的に不動産を所有しない形にすることで、不動産特定共同事業法(不特法)の適用を回避し、投資リスクを低減させる効果を持ちます。

さらに、実際にGK-TKスキームを利用した投資ファンドは数多く組成されており、その実績からも、このスキームが投資用の枠組みとして一定の安定性を持つと評価されています。多くのプロジェクトや不動産ファンドで採用されていることが、それを証明しています。特に、投資対象となる不動産の選定やプロジェクトの運営において、慎重なリスク評価と管理が行われているため、投資家にとっても信頼できるスキームとして受け入れられています。

とはいえ、GK-TKスキームを利用したファンドであっても、投資である以上は、様々な要因(経済状況の変動、運用管理の失敗、予期せぬ市場変化など)によって当初想定していた収益が得られないリスクが存在します。そのため、投資家は、単にスキームの仕組みを理解するだけでなく、投資対象となる有価証券や事業内容についても十分に理解した上で、慎重に投資判断を行うことが求められます。

GK-TKスキームを利用することで、多様なリスク管理手法を活用し、投資家の保護を強化することは可能です。しかし、いかなるリスク管理を行っても、投資に伴うリスクを完全に排除することはできません。したがって、投資家は、常にリスク評価を徹底し、情報収集を怠らず、自身の投資判断に責任を持つ姿勢が重要です。


<参考文献等>
「GK-TKスキームとは?投資家が知っておきたい基礎知識を解説」
「不動産の証券化に関する基礎知識」

2024-09-01|タグ: , ,
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