株式会社の世界では、大株主と少数株主の利害が常に一致するとは限りません。特に会社の売却や大規模な株式取引の際、この利害の不一致が顕著になることがあります。このような状況に対処するため、株主間契約に盛り込まれる重要な二つの条項があります。それが「ドラッグアロング権」と「タグアロング権」です。
一見すると難解な専門用語に思えるこれらの権利ですが、実は会社の未来と株主の利益を左右する重要な役割を担っています。ドラッグアロング権は大株主に、タグアロング権は少数株主に、それぞれ異なる形で力を与えます。しかし、両者は決して対立するものではなく、むしろ株主全体の利益を守るための補完的な仕組みとして機能します。
本記事では、これらの権利の仕組みと意義を簡単にまとめてみました。M&Aや投資の世界で重要な役割を果たすこれらの概念を理解することで、企業統治と株主の権利についての新たな視点が得られるでしょう。
1. ドラッグアロング(Drag-along):

「Drag」は「引きずる」や「強制的に連れて行く」という意味があります。この権利の性質を表現しています:
- 大株主が少数株主を「引きずって」売却に巻き込む様子を表現
- 強制的な性質を反映:大株主が少数株主を「引きずって」取引に参加させる
- 「along」は「一緒に」という意味で、全株主が同じ条件で売却に参加することを示唆
後ほど紹介するタグアロング権は少数株主が主張できる権利の1つですが、こちらのドラッグアロング権は「強制売却権」としての位置付けになります。
ドラッグアロング権は、大株主が株式を売却する際に、少数株主の株式も同じ条件で売却を強制できる権利です。この権利は主に大株主の利益を保護し、M&Aプロセスを円滑化する目的で用いられます。特に、経営権の完全移転を目指す場合に重要な役割を果たします。
買収企業はこの権利により、容易に過半数や特別決議に必要な株式(通常3分の2以上)を取得でき、経営権獲得の確実性が高まります。少数株主の個別交渉を回避できるため、取引全体の効率も向上します。

一見、この権利が発動されると、少数株主は株式の売却が強制される義務を追うことになるので、少数株主に不利に思えるこの条項ですが、大株主と同等の条件で株式売却ができるため、適切に運用されれば少数株主にもメリットがあります。そのため、多くの場合、株主間の合意のもとで契約に盛り込まれています。
このように、ドラッグアロング権は、会社全体の売却を円滑に進め、全株主に公平な機会を提供する重要なツールとして機能し、効率的な企業取引と株主利益の調和を実現します。

2. タグアロング(Tag-along):

「Tag」には「付いていく」「後について行く」という意味があります。この権利の性質を表現しています:
- 少数株主が大株主の売却に「付いていく」様子を表現
- 任意の参加を反映:少数株主が自由意思で大株主の取引に「タグ付け」して参加
- 「along」は同様に「一緒に」を意味し、同じ条件での参加を示唆
実務では「株式の売却参加権」と認識されて、タグアロンやCo-sale right(共同売却権)などの別の名称で呼ばれることもあります。
株式会社において、大株主の動向は会社の価値や株価に大きな影響を与えます。特に、大株主が大量の株式を売却する場合、市場に与える影響は甚大で、株価が急激に下落する可能性があります。このような状況下では、大株主が有利な条件で株式を手放す一方、少数株主は不利な立場に置かれ、経済的損失を被るリスクが高まります。
ここで重要な役割を果たすのがタグアロング条項です。この条項が契約に含まれていれば、少数株主は大株主の株式売却に「便乗」する権利を得ます。具体的には、大株主が株式を売却する際、少数株主も同じ条件と価格で自身の保有株式を売却することができます。これにより、少数株主は大株主の行動による不利益から自身を守り、公平な取り扱いを受けることが可能になります。
タグアロング権は、株主間の公平性を保ち、少数株主の権利を保護する重要なメカニズムとして機能します。この権利により、会社の所有構造に関わらず、全ての株主が平等に扱われ、大規模な株式取引における利益や機会を共有することができるのです。

大株主の機動的な意思決定を可能にするドラッグアロング権と、少数株主の権利を保護するタグアロング権。これらを適切に組み合わせることで、企業は戦略的な判断を迅速に下せると同時に、全ての株主に公平な機会を提供することができます。
M&A、事業承継、あるいは新たな成長戦略の実行など、企業の重要な転換点において、ドラッグアロングとタグアロングは極めて重要な役割を果たすでしょう。
コメントを残す