クイックに理解する「みなし配当」

会社法や会計理論の考え方にはない、税法上の独特の概念の代表例の1つが、実際には配当ではないのに「利益の分配に該当する」として、剰余金の配当と同様に取り扱われる「みなし配当」です。

今回はこの「みなし配当」について簡単にまとめてみました。

みなし配当とは

自社の株主に対して金銭を支払うケースは、大きく以下の2つになります。

図1:資本の払い戻しに関する会計上の捉え方

通常は儲けた利益を原資として、利益配当の名目で支払う方法が一般的ですが、出資の払い戻し、自己株式の買取り代金の支払いとして、資本としてプールされている金額を支払うこともあります。

会計上は理屈そのままに、資本の払戻しは資本剰余金から支払われ、資本剰余金のみ減少するとともに、利益配当は一部の例外を除き、逆に利益剰余金からのみ支払われる、として処理がなされます。

一方、税務は会計と異なり、経済的実態が配当と同様であるものについては、租税法上『配当とみなす』制度を設けています。これが世に言う「みなし配当」制度です。

「みなす」とあるように、実態がどうあれ、株主への支払いの中に利益の還元が含まれている、という前提で、資本剰余金と利益剰余金の按分比率に基づいた金額が払い戻しの財源、と考えて処理することを要求しています。

図2:資本の払い戻しに関する税務上の捉え方

みなし配当に伴う帳簿上の処理の相違点

みなし配当が生じるケースは具体的に税法上明示されていますが(所法25①、法法24①)、今回は自社株買いの例で説明してみたいと思います。

【具体例】会社設立時に20%(100株)の出資を行ったB氏が、会社に対して持分の半分(10%)の買い取りを依頼した場合

図3:B氏の株式譲渡の前提

要約すると、個人のB氏は簿価5,000の株式を、発行元の会社に7,500で買い取ってもらう、というケースで、B氏に7,500-5,000=2,500の利益が手元に残ります。

※ なお、上図3の「2. 譲渡する株式の簿価」と「3. 税務上の資本金等の金額」の金額が5,000と同額になっていますが、後述する譲渡損益が発生するような、譲渡株式自体を1株当たり資本金(1株@100)よりも割安(@80)・割高(@110)で過去に取得した場合には「2. 譲渡する株式の簿価」 ≠ 「3. 税務上の資本金等の金額」となります。

株式の買い手である会社と売り手であるB氏のそれぞれの立場から、また、両者における会計と税務の双方の観点から行われる仕訳をまとめると、以下のとおりになります。

図4:売り手・買い手双方の会計仕訳

みなし配当という観点での特徴は、買い手の②税務において、会計のように自己株式勘定という資本剰余金のマイナスで計上される勘定科目ではなく、直接利益剰余金の減少を認識する点、また売り手の④税務では、売却益ではなく「受取配当金」を認識する点ではないかと思います。

みなし配当に関連する税負担

『みなし配当は、法人株主にとっては税務上のメリットがある一方、個人株主にとっては不利になる』とよく言われますが、これは配当に関する課税の取り扱いの差から生じています。

下図は個人株主と法人株主それぞれの、譲渡益と配当の場合の税負担の比較表です。青の矢印は税負担の観点で有利(税率が低くなる)、赤の矢印は一方に比べると不利、で表示しています。

図5:個人株主・法人株主にとっての税務上のメリデメ

個人株主の税務負担

まず個人株主から見ていきましょう。

『ん?配当金って税率20%ではなかったでしたっけ?いつも証券会社から送られてくる明細では、20.315%の税率を見た気がするのですか・・・』

と思う方も少なくないかと思いますが、個人の上場株式における配当金は申告分離課税の選択が可能、かつその場合、20.315%(所得税および復興特別所得税15.315% 住民税5%)になっているだけなのです。

つまり、配当金を受け取った人が大口株主(持株比率が3%以上の株主)である場合や、非上場株式の配当金を受け取った場合は原則である「総合課税」になります。

これに伴い、1年間に稼いだ給与や事業収入などを全て合計した金額に、15%~55%の税率で所得税(+住民税)が発生することになり、これが多くの株主にとって税負担が重たくなる所以となっています。

一方、株式の売却益については、上場株式であろうと非上場株式であろうと、20.315%の税金が課税されるのみです。みなし配当は一般的に多額になるケースが多く、仮に2,000万円のみなし配当が発生すると、これだけで税率は40%にまで跳ね上がります。

よって、個人株主においては、圧倒的に売却益として分離課税が適用される方が有利になる、と言えます。

法人株主の税務負担

法人株主の場合、個人株主とは異なり、益金不算入制度を活用できることが最大のメリットとなります。これにより、みなし配当として生じる受取配当金の大部分を益金に算入しない処理を行うことが可能となります。

益金不算入額は、株式の保有割合と国税庁が定めた株式等の区分によって、計算方法が変わりますので、詳細は以下のリンク先で確認いただければと思いますが、特に5%の以上の持ち分比率を有する場合、配当と株式売却益を比較すると、圧倒的に配当の方が節税効果が高くなります。

<参考>
Ⅱ 受取配当等の益金不算入制度の見直し|国税庁

みなし配当と株式売却損益の関係

上記図4で譲渡価額と簿価の差額は、会計上は株式売却益になり、税務上は受取配当金になる、と紹介しました。では、税務上の「みなし配当」が登場する取引においては、株式売却(譲渡)益が計上されることはないのでしょうか?

結論はNoで、譲渡対象の株式を取得した際、1株当たりの資本金の額とは異なる金額で取得していた場合には、みなし配当とは別に、譲渡損益が発生することになります。文章だけだと分かりにくいと思いますので、図示すると、以下のとおりになります。

図6:みなし配当と同時に株式譲渡損益が発生するケース

要するに、1株100円の株式を取得時に80円と割安で購入している場合は、売却時に100円-80円の差額が譲渡所得として発生します。一方、逆に1株110円とプレミアムを付けて購入した場合には、譲渡損が発生します。

なお、この譲渡損については、所得税の計算上はこれを他の所得と損益通算することはできない点は注意が必要です。

また、上図6を見ていただくと明らかだと思いますが、みなし配当は譲渡価額と資本金等の差になります。ですので、Cのケースのように、取得価額>資本金等

株式の異動の差異はみなし配当を考慮する税務戦略を

みなし配当自体、かなりマイナーかつ専門的な論点ですが、知っている・知らない、で税負担が大きく変わってきます。例えば、事業承継の場面で、後継者が直接株式譲渡の形で会社を取得するのではなく、法人間取引の形で株式譲渡を行えば、みなし配当制度が適用され、税率を下げることができたりします。

一方で、個人が株式を売却したい時は発行元の会社に売却するとみなし配当が適用されるため、他人や他の会社に売却するだけで、みなし配当制度の適用を回避でき、単なる譲渡所得で処理することができます。

『会社が株主に払戻しをするケース』と『組織再編を行うケース』にはみなし配当の議論が欠かせませんので、課税関係には十分注意していただければと思います。

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