J-SOX担当になった時の対処法

『J-SOX』、一昔前にたくさんの書籍が書店に並んでいましたが、もうすっかり見なくなりました。それもそのはず、導入され早12年が経ちました。正式名称は「財務報告に係る内部統制報告制度」、ちょうど私自身が監査法人でマネジャー昇格目前の職階の時に導入され、私もこの制度の導入支援業務に従事していました。上場企業の財務報告に係る内部統制を強化し、ディスクロージャーの信頼性を高めようという目的のもと、平成20年(2008年)4月1日から始まる事業年度から適用され、若干の変更はありましたが、特に制度としては大きく変更されることなく現在に至っています。

では、この制度は実際にどのように運営されているのか。実務を見ると、制度導入の落ち着きに従って、各社一様ですが、J-SOX対応作業は上場維持に必要なルーティーンワークとなり、「毎年、最低限やるべきことを淡々とやる」という作業にまで地位が低下し、J-SOX運用は「可能な限りの省人化・低コスト」が目標となるまでになっています。

「J-SOX対応は企業のガバナンス強化にも役立つ」、確かにこの一面もありますが、一方でJ-SOX導入後も上場企業の不正事例や粉飾決算事例(世間でいう「不適正会計」)が後を絶たず、J-SOX制度導入が企業のリスク管理強化に役立っていないのではないか、という声さえ聞かれます。厳密には内部統制を超えた経営者不正の問題が多いため、J-SOXではカバーできない要因で会計スキャンダルが発生しているとも言えますが、

『あれだけコストと時間をかけたJ-SOX対応はなんだったんだ』

と懸念の声が上がるのも理解できます。

写真:freepik.com

J-SOX制度が落ち着いたことで、この制度に対するニーズとしては、新たにJ-SOXに対応するための仕組みの構築ニーズ、すなわち、

  1. IPOを実現するためにJ-SOX対応が必要な会社、及び
  2. M&Aで新たに子会社・関連会社になった、これまでJ-SOXに無縁だった会社への導入

が表向き多数を占める、と言われています。しかしながら、実は静かに既にJ-SOX制度を導入している会社でも一定のニーズが発生しています。そのニーズは上記に示したとおり、J-SOX運用の目標が「可能な限りの省人化・低コスト」になったことで、J-SOX対応の部署の人数の削減に伴い、これまで制度対応を孤軍奮闘で対応してきた担当者の方が別に部署に異動になるとともに、これまで内部統制とは全く無縁の業務をされていた方が、新たにJ-SOX制度担当部門のコアメンバーとしてアサインされる事態が発生していることに起因しています。

  • 前任者からの引継ぎで、これまでどおりの作業を続けてもらえれば問題はない
  • 困った時は監査法人にも聞けば教えてくれる

そういう引継ぎが多く、制度の概要は独学できるものの、自社の細かい運用ルールがどういう経緯でそうなったのか、についての理解があやふやなまま対応せざるを得ない状態が至る所で発生しています。

写真:freepik.com

確かに、経営環境が前任者の時代の時とほとんど変わらず、前任者の言うとおりの作業をそのまま行われば何の問題もないと思いますが、今のご時世、M&Aなどで新たに連結グループとして取り込む会社も増えており、新たに制度対応作業が必要になってくる場面も増えています。そんな状況下では色々検討事項も増えてきますが、2008年以前のJ-SOX制度導入時の議論や知識についての情報があまりない現担当者にとっては結構ハードルが高く、また周りも『既に導入して何年にもなるJ-SOX対応はそんなに難しくないだろう?』と担当者の心配が軽視されがちになる雰囲気も余計に重くのしかかります。

上記がヒト・モノ・カネの「ヒト」の部分でしたが、「カネ」の部分も、海外子会社対応などの必要な作業に要する部分は別として、「J-SOX対応に予算を増額することはよっぽどでない限り認められる雰囲気ではない」というのが、個人的な繋がりで確認した複数の会社の担当者の意見でした。

『J-SOXのために外部のコンサルを入れたい』

とリクエストを出しても「制度としても導入以来、何とか回っているし、今、何か変えなければいけないことがあるのか?」と渋られる上、このコロナ禍で本業の先行きも見通せない昨今では、コストの使い方としての優先順位はさらに下げられる状況だと思います。

写真:freepik.com

一方、「監査法人に聞けてばいい」という点についても、監査法人のメンバーも社内のジョブローテーション制度が活発化してきており、当時の導入時のメンバーがほぼ他のクライアントの担当になっている、or 退職している状況にあり、監査現場でJ-SOX対応作業に汗をかく若手の会計士メンバー自体も、作業者としての位置づけであり、自分の会社の導入時の論点等について詳しく知っている人が少ないのが現状です。今の若手会計士の能力が低い、と言いたいわけではなく、導入期以降の制度安定期に入社した若手会計士の方々が制度趣旨や概念的な部分をインプットする機会があまりなく、的確なアドバイスが出せない、という、ある意味、仕方のない理由によるものです。このような状況では、監査法人に聞いても、自分が欲する情報を得れるかどうかは未知数となります。

また、監査法人側も監査報酬の値上げに対する風当たりが厳しい中、KAM(監査報告書における監査上の主要な検討事項)や新収益認識基準といった特殊要因を理由に何とか値上げ交渉に持ち込もうとしている現状があります。裏返せば、J-SOX対応で値上げ交渉はかなりハードルが高い状況にあります(値上げする理由がなかなかない)。

多少J-SOXの評価対象子会社が増えるくらいなら、「今お支払いしている監査報酬の枠内で対応してください」とリクエストされることが多いですし、監査契約を締結している手前、ちょっとしたアドバイスやコンサルテーションなどは「会計士に求められる指導機能として助言をください」と言われるのが関の山となっています。よって、監査法人側としても、J-SOX対応作業はコスト要素の側面が強く、できる限り工数を掛けずに作業を終えることを目標としています(前期よりもちょっとでも工数を削減することを目標とし、悪くても現状維持を死守することを計画するケースが多いです) 

写真:freepik.com

では、外部に頼る予算もない、ノウハウも前任者に属人化していて部内にそこまで溜まっていない、という状況下で新任のJ-SOX担当者はどうすればいいか。まずは歯を食いしばって一通り回してみて現状の問題点・課題点を実体験として理解することから始まり、そこから、制度対応の効率化という目線で、外部の専門家に対して壁打ちを行うことが妥当と考えます。

壁打ち相手については、まず外部のコンサルタントを雇う余裕がなければ監査法人でもいいでしょう。前述のとおり、監査法人にも監査工数の効率化という命題がありますので、Win-winになる状況はあります。よって、監査報酬の枠内で「J-SOX作業の効率化のために力を貸して欲しい」といえば、力になってくれるはずです。また、監査法人としても経営に貢献したいというニーズがありますので、

『効率化を果たせれば、さぞかしCFOも喜びます』

といえば、CFO Agendaとして、無下にできないことも逆手に取りましょう。監査法人を敵視する個人独立会計士がいますが、監査法人は味方につけるべき人たちで、決して敵ではありません。それこそ、会社側からうまく利用して、ビジネスパートナーとすべき相手だと考えています。

また一方で、『どうしても監査法人に頼むのは嫌だ』という会社や担当者の方々も一定数おられます(かつて私が担当している会社先もそうでした)。
その場合は、外部コンサルタントに頼むことになりますが、その際、現状100の時間を要する手間暇をコンサルの知見を活用して改善させることで70になる、また金額換算でXX円安くなる、という形で外部に支払うコンサルフィーを上回る効果が見込めることをコミットすることで、何とか予算を確保しに行くことになると思います。知見がないものは自分たちの努力ではどうしようもありませんので、外部リソースを活用すべきところです。

ただ、気を付けないといけないのは、外部コンサルも仕事を拡大させたい野心を持っていますので、「RCM」といわれるリスクコントロールマトリクスの見直しなどの追加作業の提案もセットで行ってくることも多いです。そこはきっちり線を引いて当初の目的(例えば、効率化)に寄与するところだけ力を借りることが大事だと思います。

写真:Unsplash

ちなみに外部のコンサルも大手のBig4から個人の会計事務所までピンキリですが、専門家選びの際のポイントは以下の2つと考えています。

  • 2008年のJ-SOX導入時であったり、または、IPO時のJ-SOX導入に携わった経験があること
  • 導入支援だけではなく、実際にJ-SOXの監査を主任以上の立場で実施した経験があること

の2点の経験を持つ専門家であれば、非常に参考になると思います。J-SOXも結局は監査対象になりますから、監査する方される方の両方の視点があると、効果的かつ効率的な対応が可能になります。ちなみに、世の中にJ-SOXに関する書籍が溢れていますが、著者の方々は2008年の制度導入時に既に監査法人を退職されていて外部コンサルタントとして活躍された方が多く、2点目の監査対応の経験がない方々が多いのが特徴です。よって、その方々は監査上のポイントについての観点がどうしても十分ではない(多くの場合視点を持ち合わせていない)ため、ここは個別に監査法人に確認するなどのケアが必要になると思います。

以上、J-SOX制度を今まさに行っている方々向けに記事を書かせていただきましたが、自分で勉強もしつつ、外部の知見は最大限活用する、そんなスタンスでぜひ現状維持ではなくより良い制度対応を目指していただければ幸いです。

2008年の導入支援をしていたコンサルが作ったRCMが見にくい等、不満を述べれば山ほどあるかと思いますが、それでも前述のとおり、「これまで制度として回ってきた」という実績があります。利用を言えば、リスクの高くない作業はできるだけ省力化し、リスクがあるのに統制が弱かった部分やそもそも漏れていた部分などにリソースをフォーカスできるような体制を築いていただければと思います。

J-SOX対応作業、日の目を見ない作業ですし、どちらかというと社内から疎ましがられる作業ですが、制度対応であり会社にとっては不可欠な作業です。また、「内部統制」が社内で意識されることにも皆さんが一役を買っているのも事実です。誇り高き仕事、とまでは誇張しませんが、会社全体に目を配る必要がある重要な業務ですから、このコラムが少しでもお役に立つ、または息抜きになれば幸いです。


2020-09-23|タグ: , ,
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です