フレームワークを考える
かつてビジネススクールで学んでいた時、何度も目にしたのが「フレームワーク」。アメリカのハーバード大学の有名な教授が広め、世界中の現場やアカデミックの場で用いられている有名どころのロジックは、ほぼ網羅的に学んだ気がします。ただ、当時から「これを用いることで精緻な分析ができる」と信じられていたことに対してものすごく違和感があったし、また、課題として提出が求められるレポートでも、とりあえず「フレームワークに当てはめて分析すること」に配点がなされていました。
そんなフレームワーク、確かに漏れなくダブりなく考えるツールとしてはとても有効であることは認めます。考え方のお作法として、どう考えていいか分からない時に一つの考え方を提供してくれる点、また、分析する視点が明示されているため、効率的に分析に入ることができる点などはフレームワークを用いることの最大のメリットと言えると思います。
例えば、新規事業を考える時、3C分析と呼ばれるフレームワークを用いることで、ノウハウやリソースなどの自社の状況(Company)、競合他社の状況(Competitior)、及び顧客ニーズなどの市場の状況(Customer)と言った視点で検討することができ、漏れなく検討することができます。
今回はそのフレームワークについて述べてみたいと思います。メッセージとしては、単なるツールでしかないので、整理の道具で終わってしまう可能性が高い点(フレームワークからは新しい洞察が出てこない可能性)は強調し、代表的なフレームワークの限界を例として挙げていきたいと思います。
SWOT分析:
自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、発展の機会(Oppotunity)、自社にとっての脅威(Threat)を分析して、戦略を導き出す方法
世の中の経営学の専門書を見ると、「SWOT分析から戦略を導き出す」ことが理想像として書かれていますが、実際に企業の強みや弱みの分析には主観が入る上、見方によっては強みであることが「弱み」になることもあります(規模がお大きいことが強みであれば、規模が大きいがゆえに機動的に動けないことが弱みにもなる)。そうすると、結局、SWOT→戦略ではなく、やりたい戦略が先にあって、それを補強するための説明材料としてSWOT分析が利用される、という現実になります。
これ故に、コンサルファームの作業としても、SWOT分析を作ることは少なく、大体は会社自身が作るか、または外部の調査会社から購入する、ということになります。
また、強みがある部分で脅威に晒されている領域(S&T)について課題が突きつけられますが、自社としては強みを否定するような戦略は打てず、結果、分析が生かされないことにもなり、この分野でハーバードのクレイトン・クリステンセン教授がいうところの「イノベーションのジレンマ」に陥ることになります。
本当であれば、このような分野を炙り出し、場合によっては自己否定していくことにこのSWOT分析が利用されるのがベストですが、なかなかそううまく行きません。
Five Forces分析:
企業を取り巻く脅威を知り、業界の収益構造を明らかにするための分析で、企業の競争要因を5つに分類することで、自社の競争優位性を導き出そうとする
マイケルポーター教授が公表し、今や有名な分析フレームワークとして5本の指に入るほど広く親しまれているのが5つの競争要因分析、いわゆる「Five Forces」。5つの枠を埋めて戦略を提案する根拠として利用されている例は、ビジネススクールや実際の会社実務においても少なくないですが、この埋められた分析結果を見て、まさしく「So what?」(だからなんなの?)と突っ込まれて終わるケースが多いと思います。構造は見えるようになったものの、新しいことは何も出てこない、「ただ現状が分析されているだけ」、そう捉えられてしまいます。
また、どちらかというと「その業界が儲かるかどうか」の分析に収斂してしまうため、特定の企業の分析には向かないという欠点もありますし、競合と手を組むオープンイノベーションや、顧客やサプライヤーとの「共創戦略」のような、近年の新しい流れを説明することができず、固定的な見方は時代遅れ感さえ感じざるを得ないのが正直なところだと思います。
競争の基本戦略:
競争優位を確立するための3つの勝ちパターンとして、価値を追求する「差別化戦略」、コスト競争力を追求する「コストリーダーシップ戦略」、そして他の競争相手が相手にしないような隠れた小さな市場を狙う「ニッチ(集中)戦略」がある
この考え方についても、限界が指摘されています。まず、「価値を追求する」という聞こえのいい差別化戦略について、市場がどんどん小さくなってしまうというリスクが常に隣り合わせになっており、下手をすると、ニッチ戦略と何が違うの?という状況になりかねません。
一方のコスト競争力をただ追求する戦略は、自らコモディティー化の罠にハマりにいくようで、レッドオーシャンと呼ばれる血みどろの競争世界で戦う運命になります。
これ、どちらを取っても全然魅力的に映りません。でも、ポーター教授はこの競争戦略の二者択一を迫ります。差別化とコスト競争力の二兎を追う戦略は「Stuck in the middle(中途半端戦略)」であり、必ず失敗すると。
でも、かつて世界を席巻したトヨタやソニーは高い価値を実現しながら、コストを徹底的に削ったコスと競争力にも長けていました。また、現代でも業界一の高機能を追求しながら、同じく業界一の低コストを実現するインテルのような企業が優位性を長年保持し続けている現実があります。この点でも、ポーター教授の理論を現代のビジネス環境に当てはめることは極めて危険であり、戦略の意思決定を誤らせかねないリスクが多分にある、と思います。
ビジネススクールで学ぶ社会人も増えてきました。経営学を学ぶことは大変素晴らしい事だと思いますが、古くから伝わる考え方、ツールについて、鵜呑みにせず、実際に現場で使えるかどうかを考えながら勉強に励んでもらえればと思います。
1番素晴らしいことは、学んだことが自分の実践で生き、ビジネスをさらに発展させることですから。
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