CPE問題から考える会計専門家としての自己研鑽

つい先日、古巣のあずさ監査法人に関する驚くべきニュースが報道されました。

報道によると、会計士45人が公認会計士法の第1条の2で義務づけられている「継続的専門研修」(CPE:Continuing Professional Education の頭文字)の単位を手っ取り早く集めるため、二つのオンライン研修講座に同時にログインして受講したと偽り、単位認定を受けた、とのことでした。

別ルートで確認したところ、この45人のうち、私が法人在籍時代に一緒に仕事したことがある方が2名いることが判明。複雑というか、残念な心境です。

この問題自体、業界としては由々しき問題だと思いますが、個人的に今日この場を借りて述べたいのは、この問題ではなく、職業的専門家としての専門性についてです。

我々は職業専門家として、常にクライアントの一歩・二歩先を行く専門知識や経験が求められます。これは揺るぎないところです。そのため、専門知識のアップデートは必要不可欠だし、自身の競争力・信頼の礎となるような大事な研修は忙しい中でも時間を割いて出席する、それは当然の義務というか、この職業の使命であるとさえ思っています。
(ただそれが40単位、すなわち40時間という時間で一律にする必要があるのか、という点は議論の余地があると思います。)

写真:freepik.com

100回の実務研修よりも1回の実務経験

CPEの目的を考えるにあたっては、公認会計士の独占業務とされている会計監査業務の質は落とせない、また会計監査業務の中で直面する様々な論点課題について、深い専門知識を有していないとクライアントの処理の正誤の判断を誤り、しいては投資者の投資意思決定を誤らせてしまう可能性がある点を考えれば、この制度が存在することは至極当然のように思います。

但し、残念ながら、CPEも所詮座学でしかなく、実務で直面して初めて血肉になる、という真実があります。実際に担当するクライアントで減損の要否が重要論点となり、自分の判断で会社の業績を大きく左右してしまうリスクを抱え、自分の作成した監査調書が監査報告書にサインをするパートナー、法人の審査部門などの目に晒され、論理だった道筋と立証力の強い証拠に裏付けされた理論武装で理解・了承された時、そこで専門家としての目に見える実績になり、強力な知見として自身の専門性が高まります。

一生懸命、いくら何時間も社内研修で減損会計について学んだとしても、実務のヒリヒリする緊張感の中で、何度も基準・実務指針を読み直し、時には専門書を漁り、必死に監査調書を書いては消し、何度も見直し、またレビューワーの鋭いレビューコメントを乗り越えることには絶対に勝てません。だからこそ、単位集めよりも現場に出て頭に汗を掻く方が、圧倒的に会計専門家としての専門性を高める結果になると思っています。

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若手会計士の監査法人退職率の高まり

そんな中で気になるのが、若手会計士の監査法人の離職率が年々上がってきていることです。最近でこそ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う転職市場の急激な冷え込みで少し一服感がありますが、それ以前は監査法人でいうシニアアソシエイトクラスの会計士を筆頭に、監査法人から離れる人が増加傾向にありました。

『会計士が活躍する場所は監査法人だけはない』

これはもっともであり、会計の専門家として事業会社、税理士法人、コンサルファーム、または経営者・マネジメントとして、様々な領域で活躍してもらう方が絶対に業界や日本経済にとってもプラスになるはずだと強く信じています。

しかしながら、会計専門家として最も急激な成長曲線を描く年次に、それも研修の何倍も学ぶことがある現場を早々に去ることについて、幾ばくかの勿体なさを感じるのも事実です。それを裏付けることとして、私自身、独立してから何人もの若手の独立会計士と仕事を一緒にしましたが、ほとんどの方が、能力というよりも専門性・知見の物足りなさを痛切に感じました。

中小零細企業相手なら多分、問題にならない弱みではありますが、逆に言えば難度の高いクライアントやプロジェクトに関わる場合には致命傷になるかもしれない、と思うほどです。

  • 投資評価、減損会計など重要な会計基準の実務上の勘所が分かっていない
  • J-SOXは作業者としてしか関与した経験がなく、方針変更の際に頼りにならない
  • 税金計算、繰延税金資産といった監査法人でも高年次にならないと担当できない領域の知識が不足

など、彼・彼女たちももう少し経験を積んでおけば、この辺りは十分インプットできたかもしれないのに、と思うことも多かったです。

継続的専門性を高めるためのツールの多様化促進を

もちろん、「監査法人ではできないことをやりたい」と目的意識を強く持って監査法人を去る人にとっては、上記で例を挙げたようなことは承知の上で、むしろ『そこで勝負しようとは思っていない』という方が多いと思います。

英語を駆使して会計人材として総合商社などのグローバル企業で勝負しようとする人、マネジメントとしてベンチャー企業に関与しIPOを目指す人、投資銀行やコンサルファームに移ってより厳しい競争の中に飛び込んでチャレンジする人、M&Aの分野で力試しをしたい人 etc…、専門性は監査法人でキャリアを積む人たちとは違う分野になるでしょう。

でも、国家試験の難関を通り抜けた職業専門家として自己研鑽に励むことは、前述のとおり、使命であり、責任だと思っています。会計や監査領域ではなくても、その分野でしっかり専門性を伸ばすことが自身の生き残りに寄与しますし、社会的信頼性を勝ち取る元になると思います。

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制度して形骸化した感があるCPE制度。研修・勉強のやり方は人それぞれなのに、単に講義を聞いて、しかも判定基準が研修受講時間であるところは時代にマッチしていないのは事実です。ここは是が非でも変えて欲しいと思いますが、一方で、若手の会計士の方に伝えたいのは、座学である必要はないですが、貪欲に学ぶ姿勢を持ちづけて欲しいということです。

業界を問わず、多くの方々が仰ってますが、これから迎える(いや直面しつつある)ウィズコロナ、アフターコロナの時代は、これまで以上に「人に仕事が来る」時代になります。その「人」は専門性だけではなく、コミュニケーション力や柔軟性など、ビジネスパーソンとしての総合力評価になりますが、それでも専門性も十分に評価対象になります。若い時のインプット量は当然目下の差別化要因になりますが、30代後半、40歳以降でさらに大きな差を生みます。さらに数年後には、非常に幅広い視野を有する知的労働者になるか、ほぼ作業者と化してしまう専門家になるか、の大きく2パターンに分かれていくことになると思われます。

ぜひ、自分への投資を怠りなく。まだイメージすら湧かない10年後に少しでも役立つかな、と思うことは遠慮なく挑戦してみてください。ほんのちょっとの努力が、数年後、「知的生産者」として一目置かれるか、または「作業者」と化した外注先として認識されるかの差を生み出します。

他人を寄せ付けないほどの「圧倒的な積み上げ」、もしくは他人と違う「独自路線の積み上げ」どちらでもいいですが、キーワードは「積み上げ」です。そして、一歩一歩歩みを止めないことだと思います。大丈夫、その意識がきっと皆さんを強くしますから。

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